納得と行動を促す:リモートサポートにおける効果的な説明の技術
カスタマーサポートにおいて、お客様への「説明」は非常に重要な要素です。単に問題解決策を伝えるだけでなく、お客様がその内容を正確に理解し、納得し、そして必要な行動へとスムーズに進めるかどうかは、応対の質を大きく左右します。特にリモートワーク環境では、対面での微妙な表情や雰囲気といった非言語情報が少ないため、言葉による説明の技術がより一層重要になります。
本記事では、リモートサポートにおいてお客様の「なるほど!」を引き出し、次の行動を促すための効果的な説明技術と、それがお客様に「感動体験」を提供することにどう繋がるのかを掘り下げて解説いたします。
サポートにおける「説明」の重要性とは
サポート担当者は日々、製品やサービスの使い方、不具合の原因と対処法、手続きの詳細など、様々な情報を説明しています。この説明が不十分であると、お客様は不安を感じたり、誤解が生じたり、問題を解決するために必要な行動が取れなくなったりします。
一方で、お客様の状況や理解度に合わせて丁寧かつ分かりやすく説明することで、お客様は安心して問題解決に取り組むことができます。さらに、なぜその解決策が有効なのか、どのような背景があるのかといった情報を加えることで、お客様のサービスや企業に対する信頼感は増し、単なる問題解決を超えた「納得」や「安心」といった感情が生まれます。これが「感動体験」の土台となるのです。
リモート環境ならではの説明の難しさと工夫
リモート環境、特に電話やチャット、メールといったテキストベースのコミュニケーションでは、お客様が説明をどの程度理解しているか、どこでつまずいているかといった状況を把握しにくい側面があります。
- 非言語情報が少ない: 対面であれば、お客様の表情や頷き、視線などで理解度を推測できますが、リモートではそれが限られます。
- 誤解が生じやすい: テキストだけでは意図が伝わりにくく、言葉の選び方一つで誤解を招く可能性があります。
- お客様の集中力が途切れやすい: 画面共有などが難しい場合、口頭やテキストでの説明だけで複雑な手順を追っていただくのはお客様にとって負担が大きい場合があります。
これらの課題を克服するためには、リモート環境に適した説明の技術を意識的に習得し、活用する必要があります。
納得感を高める説明の基本原則とテクニック
お客様に「なるほど、そういうことか!」と納得していただくためには、いくつかの重要な原則とテクニックがあります。
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相手の理解度と状況を把握する: 説明を始める前に、お客様がどのような製品知識を持っているか、どのような状況で困っているのかをしっかりとヒアリングします。「〇〇について、どのあたりまでご存知ですか」「どのような操作で詰まっていますか」といった具体的な質問でお客様の状態を把握し、説明のレベルや内容を調整します。
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結論から先に伝える(PREP法などの活用): 複雑な説明をする際は、まず最も伝えたい結論やポイントを最初に提示します(Point)。次に、なぜそれが結論なのかという理由や根拠を説明し(Reason)、具体的な事例やデータを示し(Example)、最後に再び結論を繰り返す(Point)というPREP法のような構造は、情報の整理に役立ち、お客様も全体像を掴みやすくなります。
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専門用語は避けるか、丁寧に補足する: 社内や業界で当たり前に使っている専門用語でも、お客様にとっては unfamiliar(なじみがない)な言葉かもしれません。可能な限り平易な言葉に置き換えるか、使用する場合はその場で簡単な補足説明を加えます。「これは専門用語で恐縮ですが、簡単に言うと〇〇のことです」といった前置きも有効です。
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理由や背景を添える(Whyを伝える): 単に「〇〇してください」と手順だけを伝えるのではなく、「なぜその操作が必要なのか」「なぜこの設定になっているのか」といった理由や背景を説明することで、お客様は納得感を持ちやすくなります。「この設定変更は、〇〇という不具合を防ぐために必要になります」「このボタンを押していただくのは、システムが△△と認識するためです」のように、目的や効果をセットで伝えます。
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具体例や比喩を用いる: 抽象的な説明は理解しにくいため、具体的な例を挙げて説明します。「例えば、お使いのスマートフォンで言うと…」「これは〇〇に例えると…」のように、お客様にとって身近なものに例えることで、複雑な概念もぐっと分かりやすくなります。
行動を促すための説明のポイント
お客様に納得していただくだけでなく、その後に必要な行動へとスムーズに繋げることも重要です。
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次のステップを明確に提示する: 説明が終わった後、お客様が「で、次は何をすればいいの?」とならないように、具体的な次の行動を明確に伝えます。「次に、画面右下にある『設定』ボタンをクリックしてください」「大変お手数ですが、〇〇の情報を確認し、再度お試しいただけますでしょうか」のように、誰が、何を、どのように行うのかを具体的に示します。
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行動のハードルを下げる: 操作手順が複雑な場合は、ステップごとに区切って説明したり、「まずはここだけ見ていただければ大丈夫です」と重要な箇所を強調したりします。リモート環境であれば、チャットで操作手順のリンクを送る、画面共有で実際の操作画面を見せながら説明する、といった方法が有効です。
- チャットでの活用例:
「〇〇様、大変お手数ですが、以下の手順で操作をお試しください。
- [このリンク]をクリックして設定画面を開きます。
- 画面上部の『アカウント情報』タブを選択します。
- 『メールアドレスの変更』ボタンをクリックします。 もし途中でご不明な点がございましたら、いつでもお声がけください。」 このように、手順を箇条書きにし、必要な場所へのリンクを貼ることで、お客様は説明を追いながら確実に操作を進めることができます。
- チャットでの活用例:
「〇〇様、大変お手数ですが、以下の手順で操作をお試しください。
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行動した場合のメリットを伝える: その行動を取ることでお客様が得られるメリット(問題が解決する、新しい機能が使えるようになる、より便利になるなど)を改めて伝えることで、お客様は前向きに行動しやすくなります。「この設定変更をすることで、次回から〇〇のようなエラーを防ぐことができます」「この手続きを行うと、△△のサービスがご利用いただけるようになります」のように、お客様の利点を強調します。
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質問しやすい雰囲気を作る: 説明の途中で「ここまでの説明でご不明な点はございますか」「操作について何か難しい部分はありましたか」といった問いかけを挟み、お客様が遠慮なく質問できる雰囲気を作ります。リモートではお客様の様子が分かりにくいため、意識的に理解度を確認することが大切です。
「感動体験」に繋げる説明のプラスアルファ
単なる「分かりやすい説明」に留まらず、お客様に「感動」を提供する説明には、さらに一歩進んだ配慮が必要です。
- お客様の感情に寄り添う: 問題を抱えているお客様は、多くの場合、不安や苛立ちを感じています。説明の前に共感の言葉を挟んだり、「ご心配をおかけして申し訳ございません」といった配慮を示したりすることで、説明内容だけでなく、担当者の姿勢そのものにお客様は感動します。
- 将来的なアドバイスを加える: 今回の問題解決だけでなく、「今後同じような状況になった場合の対処法」や「この設定変更で他にどんなことができるようになるか」といった、お客様にとって価値のある情報やヒントを加えることで、お客様は「自分のことを考えてくれている」と感じ、期待以上のサービスを受けたと認識します。
- 確認とフォローアップを怠らない: 説明後の顧客の反応を注意深く観察し、必要に応じて補足説明や再確認を行います。チャットやメールの場合は、「手順通りに進めていただけましたでしょうか」「もし不明な点がありましたら、遠慮なくご連絡ください」といったフォローアップメッセージを送ることも効果的です。
まとめ:説明力を磨き、リモートサポートで感動を生む
リモートサポート環境において、お客様に内容を「納得」していただき、必要な「行動」をスムーズに進めていただくための説明技術は、顧客満足度を高め、「感動体験」を提供するために不可欠です。
お客様の理解度を把握し、結論から理由、具体例へと論理的に分かりやすく伝えること。専門用語を避け、理由や背景を丁寧に添えること。そして、具体的な次のステップとメリットを明確に示し、行動へのハードルを下げること。これらをリモート環境の特性に合わせて実践することが重要です。
さらに、単なる説明で終わらず、お客様の感情に寄り添い、将来に役立つアドバイスを加えることで、お客様は期待以上の価値を感じ、深い信頼感と「感動」を覚えるでしょう。
説明スキルは、日々の応対の中で意識的に磨くことができます。お客様の立場に立ち、「どうすれば最も分かりやすく伝わるか」「どうすればお客様が安心して次の行動に移れるか」を常に考えながら応対することで、リモート環境でもお客様に真に喜ばれる「一歩進んだサポート」を実現できるはずです。