期待を超えるサポートへ:リモートで顧客の「本当に欲しいもの」を見つける方法
リモートワークが広く浸透し、カスタマーサポートの現場でも顧客とのコミュニケーションがオンラインで行われる機会が増えています。対面でのサポートと異なり、非言語情報が限られるリモート環境では、顧客の抱える問題の「本質」や「本当に求めていること」を見つけ出すことがより一層重要になります。単に問い合わせ内容に答えるだけでなく、顧客の期待を超える「感動体験」を提供するためには、どのようにすれば良いのでしょうか。
本記事では、リモートサポートにおいて顧客の潜在ニーズを見つけ出し、一歩進んだサポートを実現するための具体的な方法や考え方について解説します。
なぜ顧客の「本当に欲しいもの」(潜在ニーズ)を見つけることが重要か
顧客が問い合わせをしてくる際、その内容は必ずしも顧客の抱える問題や目的の全てを表しているわけではありません。多くの場合、顧客は自身の知識や認識の範囲で「こうすれば解決するだろう」という推測に基づいた質問をします。しかし、その背後には、より深い課題や達成したい目的、「本当に欲しいもの」が隠されていることが少なくありません。
例えば、「〇〇という機能の使い方を教えてください」という問い合わせの背景に、「その機能を使って△△という業務効率を上げたい」「将来的に××という新しいサービスを展開したい」といった、より上位の目的があるかもしれません。
サポート担当者がこの潜在ニーズに気づき、それに応じた情報提供や提案を行うことで、顧客は「言われた通りの答えが得られた」以上の価値を感じます。これは単なる問題解決を超え、顧客の期待を上回る「感動体験」に繋がり、顧客満足度の向上、信頼関係の構築、さらには長期的なエンゲージメント強化に貢献します。
特にリモート環境では、顧客の細かな表情や雰囲気、話し方から得られる情報が少ないため、意識的に潜在ニーズを探るコミュニケーションスキルが求められます。
リモートで顧客の潜在ニーズを見つけるための具体的な方法
リモート環境という制約がある中で、顧客の潜在ニーズを効果的に引き出すためには、いくつかの具体的なアプローチがあります。
1. 深掘りを促す「質問力」
顧客の表面的な問い合わせに対して、「はい、その機能の使い方はこちらです」とすぐに回答を提示するだけでは、潜在ニーズを見つける機会を失ってしまいます。一歩踏み込んだ質問で、顧客の状況や目的を探ることが重要です。
- 背景や目的を問う質問:
- 「その機能は、どのような目的でご利用を検討されていますか?」
- 「今回、この機能についてお調べになったきっかけは何でしょうか?」
- 「この操作は、どのような状況で必要になりましたか?」
- 状況を具体的に尋ねる質問:
- 「具体的な状況について、もう少し詳しく教えていただけますでしょうか?」
- 「エラーが表示されたとのことですが、どのような操作をされた際に発生しましたか?その前後の状況はいかがでしたか?」
- 期待や将来について尋ねる質問:
- 「この問題が解決することで、どのような状態になることが理想でしょうか?」
- 「今後、この機能を使ってどのようなことを実現したいとお考えですか?」
- 確認と掘り下げ:
- 顧客の発言に対し、「つまり、〇〇という状況で、△△を実現するためにこの機能が必要なのですね?」と確認し、「その状況に至ったのはなぜでしょうか?」「△△を実現するために、他に何か課題はございますか?」のようにさらに掘り下げます。
リモート、特にテキストベースのコミュニケーションでは、質問の意図が正確に伝わるよう、丁寧かつ分かりやすい言葉遣いを心がけることが大切です。一度に多くの質問をせず、顧客の応答を待ちながら、対話のキャッチボールを意識します。
2. 顧客の言葉に耳を澄ませる「傾聴力」
質問と同様に、いやそれ以上に重要なのが傾聴です。顧客が話す内容そのものだけでなく、声のトーン(電話の場合)、テキストでの表現の仕方(チャットの場合)などから、感情や状況を読み取ろうとします。
- アクティブリスニング:
- 顧客の発言を要約して返す(バックトラッキング):「〇〇ということですね、承知いたしました。」
- 相槌や適切な返答で聞いていることを示す(電話の場合、意識的に多めに相槌を入れる)。
- チャットの場合、適度に「拝見しました」「理解しました」といった応答を挟む。
- 沈黙を恐れない:
- 顧客が考えている時間や、次に何を話すか整理しているであろう時間には、焦って話し始めず、数秒間の沈黙を保つことも有効です。これにより、顧客がより深く考え、本音を話す機会を与えることができます。
- 感情に寄り添う:
- 問題解決だけでなく、顧客が感じているであろう不便さや困惑といった感情にも寄り添う姿勢を示します。「それはご不便をおかけしております」「〇〇様のように感じられるお客様は他にもいらっしゃいます」といった共感の言葉は、顧客が心を開き、より多くの情報を提供してくれるきっかけになります。
リモートでは、顧客の状況(騒がしい場所にいる、急いでいるなど)が見えにくい場合もあります。音声やテキストから推測できる範囲で、相手への配慮を忘れずコミュニケーションを進めることが傾聴の質を高めます。
3. 事前準備と顧客理解の深化
潜在ニーズを見つけるためには、その顧客自身や、顧客がおかれている状況、業界について理解していることが大きな助けとなります。
- 過去の応対履歴の確認: 以前どのような問い合わせがあったか、どのような製品やサービスを利用しているかといった情報は、顧客の全体像を把握する上で非常に有用です。
- 顧客のプロフィールや属性: 可能であれば、顧客の職種、役職、所属する企業や組織のビジネス内容などを事前に確認します。これにより、顧客の抱えうる課題をある程度予測できるようになります。
- 業界動向や一般的な課題への知識: 顧客が属する業界で現在どのような課題があるか、どのようなニーズが多いかといった知識があると、顧客の話から潜在ニーズを推測しやすくなります。
リモートワーク環境では、社内ツール(CRMなど)を活用した情報共有が、対面での引き継ぎや立ち話よりも重要になります。過去の応対履歴や共有事項をしっかりと確認する習慣をつけることが、リモートでの顧客理解の土台となります。
4. 仮説立てと確認
顧客から得られた断片的な情報や、質問、傾聴を通じて感じ取ったことから、「もしかしたら、この顧客は〇〇ということに困っているのではないか」「△△ということを実現したいのではないか」といった仮説を立てます。そして、その仮説を直接的、あるいは間接的に顧客に投げかけ、確認するプロセスが重要です。
- 「ひょっとして、〇〇という状況で、△△のような課題に直面されていらっしゃいますでしょうか?」
- 「お客様の状況を伺っておりますと、将来的にこのようなことがお役に立つかもしれません。いかがでしょうか?」
仮説が外れていても問題ありません。大切なのは、顧客の状況やニーズに対して真剣に向き合い、理解しようとする姿勢を示すことです。このプロセス自体が、顧客からの信頼を得ることに繋がります。
リモート環境での実践における注意点
- コミュニケーションチャネルの特性理解: 電話、メール、チャット、ビデオ通話など、それぞれのチャネルの特性(情報量、リアルタイム性など)を理解し、最適な質問や傾聴の方法を使い分けます。テキストベースでは、誤解が生じないよう特に丁寧な言葉遣いを心がけます。
- 意図の明確化: なぜこの質問をするのか、なぜこの情報を確認するのか、その意図を顧客に伝えることで、協力を得やすくなります。「お客様の状況をより正確に把握し、最適な解決策をご提案するために、いくつか質問させていただけますでしょうか」といった前置きを入れると良いでしょう。
- 情報過多に注意: 特にテキストコミュニケーションでは、一度に大量の情報や質問を投げかけると顧客が混乱する可能性があります。質問は絞り込み、応答を待ってから次に進むようにします。
- 社内連携の活用: 自分一人で顧客の全てを理解することは困難です。必要に応じて他の部署や担当者と連携し、顧客に関する情報を共有したり、より専門的な知見を借りたりすることも、潜在ニーズの発見に繋がります。
まとめ:潜在ニーズの発見が感動体験の鍵
リモートサポートにおいて、顧客の問い合わせの背後にある「本当に欲しいもの」(潜在ニーズ)を見つけ出すスキルは、マニュアル対応を超え、顧客に真の感動体験を提供するための重要な鍵となります。そのためには、単なる質問応答ではなく、顧客の状況や目的に深く寄り添う質問力と傾聴力が必要です。
過去の応対履歴や顧客情報を活用した事前準備、そして得られた情報から仮説を立て確認するプロセスも欠かせません。リモートという環境の特性を理解し、コミュニケーションチャネルに合わせてこれらのスキルを実践することで、顧客との間に深い信頼関係を築き、単なる問題解決者ではなく、顧客の成功を支援するパートナーとなることができるでしょう。
これらのスキルは、一朝一夕に身につくものではありません。日々の応対の中で、意識的に質問を工夫したり、顧客の話に注意深く耳を傾けたりといった練習を積み重ねることが大切です。自身の応対を振り返り、「あの時、もう一歩踏み込んで聞いていたら、顧客の別のニーズに気づけたかもしれない」といった学びを次に活かすことで、必ず成長を実感できるはずです。
「感動体験」は、顧客の期待を超える瞬間に生まれます。そして、その期待値自体が、顧客自身も気づいていない潜在ニーズに応えることで大きく高まるのです。ぜひ、リモート環境でも積極的に顧客の「本当に欲しいもの」を探求し、記憶に残る素晴らしいサポートを提供してください。