リモートサポートで差をつける:ネガティブをポジティブに変える言葉の技術
お客様へのサポート業務において、時にシステムトラブルや製品の不具合、ご期待に沿えないご要望など、ネガティブな情報をお伝えする必要が生じます。特にリモートワーク環境では、表情やジェスチャーが見えないため、使用する言葉一つ一つがお客様に与える印象を大きく左右します。マニュアル通りの正しい情報伝達だけでなく、こうした状況でいかにお客様にご納得いただき、さらには信頼や感動へと繋げるか。そのためには、「言葉の選び方」に意識的な技術が必要です。
本記事では、リモートサポートで困難な状況に直面した際に、ネガティブな内容をポジティブな言葉遣いで伝え、お客様の体験価値を高めるための具体的な方法とノウハウをご紹介いたします。
なぜネガティブな状況でポジティブな言葉遣いが重要なのか
お客様は問題解決を求めてサポートに連絡されますが、その過程で予期せぬ制約や困難な情報に触れることがあります。このような時、伝え方によっては、お客様の不満や不信感を増幅させてしまう可能性があります。「できません」「問題です」「残念ながら」といった直接的なネガティブワードは、正しくてもお客様を突き放す印象を与えがちです。
一方、同じ内容でも言葉遣いを工夫することで、お客様の感情に寄り添い、解決に向けた前向きな姿勢を示すことができます。これにより、お客様は困難な状況の中でも理解や協力を示しやすくなり、結果としてサポート体験全体の満足度が向上します。これは単なるテクニックではなく、お客様への敬意と共感を示す重要なアプローチです。
具体的な「ネガティブ → ポジティブ」変換テクニック
ここでは、よくあるネガティブな表現を、よりお客様に寄り添ったポジティブな表現に変換する具体的なテクニックをいくつかご紹介します。
1. 「〜できません」を「〜でしたら可能です」「〜について確認いたします」に
最も頻繁に使用されがちな「できません」という言葉は、お客様の要望を完全に否定する印象を与えます。代わりに、代替案や可能性、今後の対応を示す言葉に置き換えることで、解決に向けた前向きな姿勢を示すことができます。
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例1(要望に応えられない場合):
- ネガティブ: 「その機能は現在利用できません。」
- ポジティブ: 「大変申し訳ございません。現在、その機能はすぐにご利用いただけない状況です。代替としまして、〇〇の方法でしたら同等の結果が得られますので、こちらはいかがでしょうか。」
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例2(不明な点がある場合):
- ネガティブ: 「それは分かりません。」
- ポジティブ: 「承知いたしました。そちらについて、詳細を確認させていただいてもよろしいでしょうか。すぐに担当部署に確認し、改めてご連絡いたします。」
2. 問題発生を「状況」や「課題」として丁寧に伝える
システム障害や不具合などの問題発生を伝える際、過度に技術的な言葉や断定的な表現は避け、お客様に分かりやすく、落ち着いたトーンで状況を説明します。
- 例:
- ネガティブ: 「システム障害が発生しました。使えません。」
- ポジティブ: 「現在、システムの一部にお客様のご利用に影響する可能性のある状況が発生しております。ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。復旧に向けて全力で対応を進めておりますので、今しばらくお待ちいただけますでしょうか。進捗があり次第、改めてご案内いたします。」
3. 待ち時間や保留を肯定的な言葉で伝える
お客様をお待たせする際に、「待ってください」「保留します」という表現は、命令的あるいは一方的な印象を与えかねません。お待ちいただく理由や、お待ちいただくことによるメリット(正確な情報提供など)を添えて伝えます。
- 例:
- ネガティブ: 「少々お待ちください。」
- ポジティブ: 「大変恐縮ですが、正確な情報をお調べするため、1〜2分ほどお時間をいただけますでしょうか。すぐに確認し、改めてご連絡いたします。」
- ネガティブ: 「保留にします。」
- ポジティブ: 「恐れ入ります。お客様のご状況を詳しく確認させていただくため、ただ今から1〜2分ほどお調べするお時間をいただけますでしょうか。このままお待ちいただければ幸いです。」
4. クッション言葉や接続詞の活用
ストレートな表現の前にクッション言葉を置いたり、ネガティブな情報とポジティブな情報を繋ぐ接続詞を工夫したりすることで、表現を和らげることができます。
- クッション言葉の例: 大変恐縮ですが、誠に申し上げにくいのですが、恐れ入りますが、あいにくではございますが
- 接続詞の例:
- 「〜ですが、代わりに〜」→「〜でございます。その上で、別の方法としましては〜」
- 「〜できません。しかし、〜」→「〜は現在難しい状況でございます。一方で、〇〇でしたら可能です」
5. お客様への感謝や労いを具体的に伝える
問題解決にご協力いただいたり、長時間お待ちいただいたりしたお客様へ、具体的な感謝の言葉を伝えることは、強い感動体験に繋がります。
- 例:
- ネガティブ: (特に何も言わない)
- ポジティブ: 「〇〇様、長時間お待たせしてしまい、大変申し訳ございませんでした。また、状況の確認にご協力いただき、心より感謝申し上げます。」
- ポジティブ: 「この度は、〇〇について貴重なご意見をお聞かせいただき、誠にありがとうございます。いただきました内容は、今後の製品改善の参考にさせていただきます。」
リモート環境での実践ポイント
リモートワークでは、対面と異なり非言語情報が限られます。そのため、言葉遣いがより一層重要になります。
- 文字情報での配慮: チャットやメールでは、対面よりも冷たい印象を与えやすいため、丁寧な言葉遣いはもちろん、絵文字や顔文字を適切に使うことも有効な場合があります(ただし、企業ポリシーやお客様との関係性によります)。改行を適切に使い、情報が詰め込まれすぎないようにする配慮も大切です。
- 声のトーンと抑揚: 電話やオンラインミーティングでは、声のトーンや抑揚で感情が伝わります。ネガティブな情報を伝える際も、落ち着いた、お客様に寄り添うトーンを意識することが重要です。早口にならないよう注意し、ゆっくりと話すことも信頼感を醸成します。
- 繰り返し練習する: ポジティブな言葉遣いは、意識しないと自然に出てこないものです。ロールプレイングを行ったり、自身の応対を録音・録画して確認したりすることで、無意識に使えるように練習を重ねることが有効です。
- チームでの共有: 困難な状況やネガティブな情報伝達の成功・失敗事例をチーム内で共有し、より良い言葉遣いやフレーズについて議論する機会を持つことも、チーム全体のスキル向上に繋がります。
まとめ
リモートサポートにおいて、ネガティブな状況下でお客様に寄り添い、信頼関係を築き、最終的に「感動体験」を提供するためには、言葉の選び方が極めて重要です。「〜できません」を「〜でしたら可能です」へ、「問題です」を「お客様のご利用に影響する可能性のある状況」へ、といった具体的な言葉の変換テクニックを習得し、日々の業務で意識的に実践することが大切です。
これは単なるマニュアル対応を超え、お客様一人ひとりの状況や感情を想像し、真摯に向き合う姿勢の表れでもあります。ポジティブな言葉遣いを身につけることは、お客様からの評価を高めるだけでなく、自身のコミュニケーションスキル向上にも繋がり、サポート担当者としての自信と成長実感をもたらしてくれるはずです。ぜひ、今日から意識して取り組んでみてください。