リモートサポートで顧客の「待つ・進む」時間を価値に変える:プロセス心理に寄り添う応対技術
リモートサポートにおける「感動体験」とは何か
カスタマーサポートの目的は、お客様の問題を解決することにあります。しかし、「感動体験」を提供するサポートとは、単に問題を解決するだけに留まりません。お客様が抱える課題の解決はもちろんのこと、そのプロセス全体を通じてお客様に安心感や心地よさを提供し、「またこのサポートを利用したい」「このサービスを選んで良かった」と感じていただくことにあります。特にリモートワーク環境でのサポートでは、対面と比べてお客様の表情や雰囲気といった非言語情報が得にくく、またお客様側もサポートの「裏側」が見えにくいため、不安を感じやすい側面があります。
本記事では、リモートサポートにおいて、お客様がサポートを受けるプロセスの中で必ず発生する「待つ時間」や「手続きを進める時間」といった、直接的な問題解決の対話ではない時間にいかに配慮し、お客様の心理的な負担を軽減し、最終的にお客様体験全体の価値を高めるかに焦点を当てて解説します。
プロセスにおける顧客心理の理解
お客様はサポートプロセスを通じて様々な感情を抱きます。最初はお困りごとがあり、不安や焦りを感じているかもしれません。サポートに接続するまで、あるいは担当者につながるまでの「待機時間」には、「どれくらい待つのだろう」「本当に解決するのだろうか」といったさらなる不安や、イライラといった感情が芽生えやすくなります。
担当者と話が進み、状況説明や手続きが必要な「進める時間」においては、「難しいことを言われているのではないか」「情報は正しく伝わっているだろうか」「この手続きは本当に必要なのだろうか」といった疑問や、手順の煩雑さに対する不満を感じることがあります。
これらの「待つ・進む」時間は、お客様にとってはサービスの直接的な提供を受けていない「非サービス時間」と感じられることが多く、ここでネガティブな印象を与えてしまうと、その後の問題解決ができたとしても、お客様体験全体の評価を下げてしまう可能性があります。逆に、これらの時間にいかにお客様の心理に寄り添い、丁寧な配慮を示すことができるかが、お客様に安心感を与え、最終的な感動体験へと繋がる重要なポイントとなります。
待機時間中の心理的ケア:安心感を醸成する技術
お客様がサポート窓口に接続してから担当者につながるまでの待機時間、あるいは担当者が内部での確認や調査のために一時的にお客様をお待たせする時間は、お客様にとって最もストレスを感じやすい時間の一つです。リモート環境では、お客様は一人でデバイスの前にいることが多く、待機中の状況が見えにくいため、放置されているのではないか、忘れられているのではないか、といった不安を感じやすくなります。
この待機時間中にお客様の不安を軽減し、安心感を醸成するための技術をいくつかご紹介します。
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明確な告知と見込み時間の提示:
- お客様が待機に入る際に、「現在の状況により、お待ちいただく可能性がございます」といった不明瞭な表現ではなく、「現在、オペレーターが大変混み合っており、つながるまで〇分程度お待ちいただく見込みです」のように、具体的な見込み時間や状況を可能な範囲で明確に伝えることが重要です。これにより、お客様は終わりが見えない待機ではなく、ある程度の見通しを持って待つことができます。
- 一時的にお客様をお待たせする場合も、「少々お時間を頂戴いたします」だけでなく、「この情報について、関連部署に確認いたしますので、〇分ほどお時間をいただけますでしょうか」のように、待機の理由と見込み時間を伝えることで、お客様は納得して待つことができます。
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待機中の情報提供やオプション提示:
- 電話の保留音を一方的な音楽だけでなく、よくある質問の案内やサービスに関する最新情報のアナウンスなどに活用することも有効です。これにより、お客様は単に待つだけでなく、役立つ情報を得られる可能性があります。
- Webチャットでは、待機中にFAQへのリンクを表示したり、チャットボットによる一次対応を試みる選択肢を提供したりすることで、お客様自身で解決できる可能性を提供します。
- 電話の場合、長時間待機が見込まれる場合にコールバックオプションを提示することも、お客様の負担を軽減する有効な手段です。
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定期的な状況報告(長時間の待機の場合):
- やむを得ず長時間の待機が発生する場合は、数分おきに「引き続き、少々お待ちいただいております」「まもなくオペレーターにおつなぎできる見込みです」といったアナウンスやメッセージを挟むことで、お客様に放置されていないという安心感を提供します。担当者が対応中の場合は、お客様をお待たせしている間に進捗があれば、定期的に報告を入れることで、お客様の不安を和らげます。
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待機明けのスムーズな移行と共感:
- お客様が待機から担当者につながった際には、「大変お待たせいたしました」と、待たせてしまったことへの配慮を示す言葉から始めることで、お客様の気持ちに寄り添う姿勢を示します。チャットの場合も、「お待たせいたしました。〇〇についてですね。」のように、迅速に対応を開始する姿勢を見せることが大切です。
手続き・情報収集中の心理的ケア:円滑なコミュニケーションの技術
お客様との対話の中で、お客様に状況を詳しく説明していただいたり、必要な情報を入力・提供していただいたり、あるいは特定の操作をお願いしたりする時間も、お客様にとっては手間やストレスを感じやすい場面です。特にリモート環境では、口頭やテキストでのやり取りが中心となるため、意図が正確に伝わりにくかったり、お客様が操作に迷われたりする可能性があります。
この手続き・情報収集中の時間を円滑に進め、お客様の心理的な負担を軽減する技術をいくつかご紹介します。
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目的と流れの事前説明:
- お客様に何かをお願いする前には、「お客様の状況を正確に把握するために、いくつか質問をさせていただきます」「お困りごとを解決するために、〇〇という設定変更をお願いしたいのですが、その手順をご案内します」のように、その手続きや情報収集の目的が何であり、どのような流れで進むのかを事前に説明します。これにより、お客様は見通しを持って協力することができます。
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必要な情報や手順の明確化:
- 必要な情報項目を具体的に示したり、操作手順を分かりやすくステップ分けして伝えたりすることで、お客様が迷うことを防ぎます。特にテキストチャットでは、箇条書きや番号付きリストを活用すると、情報が整理され伝わりやすくなります。
- 専門用語は避け、お客様が日常的に使う言葉に置き換えるか、簡単な補足説明を必ず加えます。「DNS設定」ではなく「インターネットの住所のようなものです」、「キャッシュをクリアする」ではなく「一時的に保存された不要な情報を削除します」のように伝えます。
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情報の正確な復唱と確認:
- お客様から提供された情報は、必ず復唱して確認します。「〇〇様のご登録のお電話番号は、090-XXXX-XXXXでお間違いありませんでしょうか」のように確認することで、情報の正確性を期すとともに、お客様に「きちんと聞いてもらえている」という安心感を提供します。
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操作中の沈黙への配慮:
- お客様が操作を行っている間は、適度な声かけや状況確認を行います。「〇〇の画面は開けましたでしょうか」「何かご不明な点はありますか」のように、お客様の状況を把握し、必要に応じてサポートを提供します。沈黙が続くとお客様が不安を感じる可能性があるため、一方的に待つのではなく、状況を共有することが大切です。
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ポジティブな言葉遣いと感謝:
- 手続きをお願いする際は、「お手数ですが」「恐れ入りますが」といったクッション言葉を用います。
- お客様が情報を提供してくれたり、操作を進めてくれたりするたびに、「ありがとうございます」「ご協力感謝いたします」といった感謝の言葉を伝えることで、お客様の協力的な行動を労い、ポジティブな気持ちを醸成します。
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完了の明確な通知と次のステップの提示:
- 手続きや情報収集が完了した際には、「これで確認に必要な情報の入力は完了です」「設定変更が完了しました」のように、明確に完了したことを伝えます。そして、「この後は、私が〇〇の手続きを進めます」「この設定で、問題が解決するかお試しください」のように、次のステップを具体的に示すことで、お客様に安心感と見通しを提供します。
プロセス全体での心理配慮の重要性
お客様がサポートを受けるプロセス全体を通じて、お客様の心理状態に意識を向け、適切なタイミングで声かけや情報提供を行うことが、リモートサポートにおける感動体験の質を大きく左右します。問題解決能力が高いことはもちろん重要ですが、それに加えて、お客様が待っている時間や手続きを進めている時間にいかに寄り添い、ストレスを軽減できるかが、お客様の総合的な満足度を高める鍵となります。
リモート環境では、対面でのちょっとした気遣いや表情によるコミュニケーションが難しいため、意識的に言葉を選び、お客様の「見えない」心理に配慮したコミュニケーションを実践する必要があります。これは単なるマニュアル対応ではなく、お客様一人ひとりの状況や心情を想像し、先回りして対応するプロフェッショナルなスキルです。
リモート環境での実践に向けて
リモート環境でこれらのプロセス心理に寄り添う技術を磨くためには、以下の点を意識してみてください。
- 自身のサポートプロセスを客観視する: お客様の立場に立って、自身の対応プロセスの中で「待たされていると感じる瞬間」「分かりにくいと感じる瞬間」「手間がかかると思う瞬間」はどこにあるかを考えてみましょう。同僚にロールプレイングをお願いするのも有効です。
- お客様からのフィードバックを分析する: お客様アンケートやいただいたコメントの中から、対応のスピード、手続きの分かりやすさ、コミュニケーションの丁寧さなどに関する記述に注目し、改善のヒントを探します。
- ナレッジやツールの活用: よくある手続きでお客様が迷いやすいポイントをチーム内で共有したり、手続きをより簡便にするためのツール活用を検討したりすることも重要です。チャットボットによる一次対応や、FAQの拡充も待機時間や手続きの負担軽減に繋がります。
- 言葉の選び方を意識的に練習する: ポジティブな言葉遣いや、お客様の気持ちに配慮したクッション言葉の使用を意識的に練習します。メールやチャットの文面を作成する際に、声に出して読んでみるのも有効です。
結論
リモートサポートにおける「感動体験」は、高度な問題解決能力だけでなく、お客様がサポートを受けるプロセス全体における心理的な安全性と快適性によってもたらされます。特に、お客様が直接的な対話をしていない「待つ時間」や「手続きを進める時間」にいかに配慮できるかが、お客様の体験価値を大きく左右します。
お客様のプロセス心理を理解し、待機時間の明確な告知や情報提供、手続きの分かりやすい説明と声かけ、そして常に感謝や労いの言葉を忘れないこと。これらの実践を通じて、お客様は単に問題が解決されたというだけでなく、「大切に扱われている」「スムーズに進めてもらえた」といったポジティブな感情を抱き、それが深い信頼と「感動」へと繋がります。
リモート環境だからこそ、意識的な心理への配慮が求められます。日々のサポート業務の中で、お客様が今、どのような状況で何を感じているだろうか、という想像力を働かせ、本記事で紹介した技術を実践していただくことが、一人ひとりのサポート担当者の成長に繋がり、そして組織全体のサポート品質向上と顧客ロイヤルティ向上に貢献することでしょう。